甲府地方気象台(甲府市飯田4)が2日、梅の開花を観測したと発表した。県内の名所などからは梅の便りがすでに届いていただけに「なんで今ごろ?」と思った人も少なくなかったのではないか。地域ごとの桜の開花時期の推移を示す「桜前線」はよく聞くが、「梅前線」はあまり聞いたことがない。取材すると、梅ならではの特殊事情が見えてきた。【照山哲史】
甲府市での2日の開花は、平年(2月24日)に比べて6日遅く、昨年より15日遅い。今冬は寒かったから開花が遅いのは「当然」と受け止めたが、合点がいかなかったのは「開花」観測そのものだ。「梅の里」(甲斐市)や「不老園」(甲府市)など県内の梅の名所からの「五分咲き」「見ごろ」とのニュースに接していたからだ。
気象台によると、梅の開花は、気象台敷地内にある「標本木」(観測を行う木)で行い、5、6輪咲いた状態をいう。季節の推移など総合的な気象状況の推移を知るためのこうした観測は「生物季節観測」という。その方法や観測対象などは気象庁の「生物季節観測指針」に定められている。生物季節観測でよく知られているのは、桜の開花だ。
指針によると、梅の場合は、花弁が5弁で、色は表裏とも白色の白梅が観測対象だ。指針は、白梅には約300の園芸品種があり、品種にこだわらないと記している。桜は、指針で原則「ソメイヨシノ」と品種を限定しているのとは対照的だ。
甲府地方気象台が標本木としているのは、白梅の中でも開花時期が遅い「白加賀(シラカガ)」だ。山梨県周辺の気象台に問いあわせると、「白加賀」を標本木とするところは多いが、長野地方気象台は「竜峡(リュウキョウ)」小梅、埼玉県の熊谷地方気象台は「冬至梅」だった。
平年が3月18日開花の長野の開花観測は、「当分先になりそう」(担当者)といい、熊谷は平年より4日早い2月8日に観測していた。
「不老園」内の盆栽店で販売を担当し、梅の種類や栽培に詳しい横山満さんによると、白梅でも品種によって開花時期は2カ月ぐらい差があり、「冬至梅」は特に早く開花し、12月ごろから咲く場合もあるという。熊谷の開花観測が早いのは当然というわけだ。品種によって早咲き、遅咲きがある白梅の開花時期の地域比較はできないと言えそうだ。
指針が品種を限定していないことについて横山さんは「地域によってはない品種もあるのでできなかったのでは」と推測する。気象庁大気海洋部観測整備計画課は「梅の開花は、1953年の生物季節観測開始時から観測している。白梅としたのは原種に近い品種を選んだのではないか」と説明し、「大切なのはその観測所で同じ品種を観測し続けることだ」と話す。