山梨県富士吉田市で茶葉などを扱う「春木屋富士吉田店」が経営するコーヒー店に昨年10月下旬、地元の女子高校生2人が訪れた。「お店を開いたきっかけは」「働く上で大切にしていることは」――。焙煎(ばいせん)機が並ぶ作業場で、専務の清水洋征さん(58)に準備した質問を投げかけた。
市は2017年から、県立富士北稜高校(同市)の生徒に、ふるさと納税の返礼品を取り扱う地元企業の紹介カードを制作してもらっている。生産者のプロフィルや目玉商品をまとめた小冊子で、年度ごとに作り返礼品に同封している。
今年度は生徒12人が週2時間の選択授業でふるさと納税の制度を学び、グラフィックデザイナーや写真家の指導を受けた。2~4人組で企業の情報を集め、質問を考えて取材に行き、計10事業者分のカードを作った。
コーヒー店を取材した3年の渡辺雛さん(18)と舟久保咲空さん(18)は、売り上げの一部を野良猫の保護活動に寄付するコーヒーセットに関心を持った。清水さんが野良猫のいつもと違う鳴き声に気づき、焙煎機の火事を防いだ体験から販売を始め、返礼品になっている。
舟久保さんは「清水さんが語るストーリーと、コーヒーへの強い思いが印象的だった」と振り返った。2人は取材で撮影した写真や手書きの絵をレイアウトし、2カ月ほどでカードを完成させた。昨年末から1000枚が寄付者の元に届けられた。
市の依頼を受け、授業を企画・構成する合同会社「OULO」(同市)の代表、赤松智志さん(36)は「市は地元企業をPRできて、生徒は地域との関係づくりができる」と狙いを説明した。
同校は04年、工業系と商業系の高校が統合して開校。今も卒業生の約半数が地元などで就職する。約9年間の活動で延べ50社の小冊子を作り、自身が紹介した市内のホテルに魅力を感じて就職した卒業生もいるという。
市のメリットも大きい。当初は広報ツールがない小規模な事業者のために始めたが、高校生の手で作った「温かみ」が寄付者とのつながりを重視する市の戦略にはまった。広報費が地元の雇用対策になり、生徒が市外に就職しても寄付者として制度に参加する種まきにもなっている。
市のふるさと納税に長く携わる市参与の萩原美奈枝さん(61)は、市民を積極的に巻き込んできた。教員をしている友人から「子どもたちが宿題でいい絵を描く」と聞くと、小中学生の入賞作品を返礼品に同封するお礼の絵はがきに採用した。
また、これまでに2回、市の広報誌で寄付金の使い道をまとめて市内全戸に配布した。1回目の21年末は特集を組み、どのような行政サービスに充てたかを伝えた。帰省した人が手に取って寄付につなげるしたたかな狙いもあった。
萩原さんは「ふるさと納税は外に向けてPRしがちだが、市民のためにやっている事業。地域に還元されていると知ってもらい、一緒に盛り上げたい」。市民一体になった広報戦略が、寄付額の伸長を支えている。
【野田樹】