北海道上士幌町(町長:竹中貢)とJA上士幌町(代表理事組合長:小椋茂敏)、株式会社NEXT DELIVERY(本社:山梨県小菅村、代表取締役:田路圭輔 以下NEXT DELIVERY )は、JA全農ET研究所(北海道上士幌町、以下ET研究所)の協力のもと、7月1日(金)に上士幌町でドローンを活用した世界初の牛の受精卵配送の実証実験を実施しました。
具体的には、ET研究所で採卵された牛の受精卵(冷凍保存されない新鮮卵)をドローンによって上士幌町内の農家宅へ配送し、移植をする実証を実施し、成功いたしました。牛の受精卵のドローン配送は世界初の取り組みです。
なお、本取り組みは、国の「デジタル田園都市国家構想推進交付金」*1を活用した取り組みです。
受精卵の入ったポットをドローンの箱に入れる(上士幌町JA全農ET研究所前)
配送スタッフが受精卵の入った箱をドローンにセット(上士幌町JA全農ET研究所前)
受精卵を搭載したドローンが上士幌町JA全農ET研究所を離陸
受精卵が入った箱を届けて飛び去る ドローン(熊谷牧場牛舎前)
ドローン配送された受精卵の入ったポットを移植師に手渡す 熊谷肇代表
使用したドローンを前に写真右より 上士幌町長竹中貢、JA上士幌町代表理事組合長小椋茂敏、NEXT DELIVERY代表取締役 田路圭輔
<本実証実験の詳細>
1.背景と目的
日本の肉牛生産においては、生産基盤の縮小に伴う構造的な子牛供給不足が深刻化する中、和牛の子牛共有の手段として、乳牛を借り腹とした和牛受精卵移植(Embryo Transfer)による子牛生産の重要性が増しています。ET研究所は、早くからこの世界に類を見ない受精卵供給体制を構築し、JAと一体となり和牛生産基盤を支えており、ET妊娠牛を全国に供給しています。
和牛の生産基盤を守るET受精卵による出産体系
一般的な受精卵移植は、凍結・保存した受精卵を使用しますが、凍結や解凍の過程で受精卵が損傷を受ければ、受胎率は低下すると考えられます。一方で新鮮卵は、冷凍受精卵よりも安定した受胎率は得られますが、採卵当日に移植を行う必要があり、採卵・流通・利用の関係上、広域流通は困難となっています。
本実証は、新鮮卵の受胎率や広域流通の可能性を検証するもので、ドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況の評価と、従来のナイタイ高原牧場へ牛を運び新鮮卵を移植する方法、あるいは農家が自ら研究所まで受精卵を車で引き取りに行く方法と、ドローンを活用し農家庭先に輸送する方法を比較し、輸送にかかる農家の手間やコストなどを比較して、ドローン配送の有効性の検証を行いました。なお、今回の実証を含め今年度中に計4回の実証を予定しています。
2.実施概要と結果
■ポットに入れられた受精卵が、ET研究所から熊谷牧場(熊谷肇さん経営)まで片道約7.1kmの距離を約13分でエアロネクストが開発した物流専用ドローンAirTruck*2で配送され、移植師に手渡された。受け取った移植師は、直ちに発情同期化させた乳牛(ホルスタイン育成牛)に移植処置を行い、約10分後に移植を完了した。
■実証の結果、今回のドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況は問題ないレベルであり、実用に耐えうることが確認できた。
■実験に協力したJA上士幌町の小椋茂敏組合長のコメント
「輸送時間が短く、振動が少ないほど、受胎率は向上する。運んだ受精卵が今後、どのような和牛や肉質になるのか追跡し、進めていければと思う。」
■受精卵が配送された熊谷牧場を経営する熊谷肇代表のコメント
「今は士幌町にある施設まで片道15分以上かけて受精卵を取りに行っている。ドローン配送は、迅速かつ安全に輸送でき、牛の供給不足解消や仕事の効率化にもつながると思う。家畜防疫上も良い。」
各分野においてデジタル・トランスフォーメーションが進行する中、畜産業界においても、少子高齢化による担い手不足という深刻な課題に直面しており、各テクノロジーの活用が求められています。
上士幌町では昨年11月にドローンを活用した牛の検体(乳汁)のドローンと陸送によるリレー配送の実証を日本で初めて実施し成功させ、乳汁に限らず、デジタルを活用した新たな配送の可能性も見据えたドローン配送を含む新スマート物流の社会実装に向けて推進しています。
この度、配送等の課題の多い畜産業界で、特に細心の管理体制での実施が必須である受精卵の配送において、新スマート物流の実装可能性を検証することができたのは大変大きな成果となりました。
今後実用化に向けて、今年度中に違う季節における複数回の実証を予定しており、引き続き、連携して検討を重ねる予定です。また、畜産業界のみならず、その他の産業界への応用、拡大の可能性も広がります。
以上
資料
*1 デジタル田園都市国家構想推進交付金
上士幌町の「上士幌ヒト・モノMaaS推進事業」デジタル田園都市国家構想推進交付金デジタル実装タイプ(TYPE1)に採択され、今回の取り組みもその事業の一環。
デジタル田園都市国家構想推進交付金デジタル実装タイプ(TYPE1)とは、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上に向けて、他の地域等で既に確立されている優良なモデル等を活用して迅速な横展開を行う地方公共団体の取組を支援するもの。
*2 物流専用ドローン AirTruck
次世代ドローンのテクノロジースタートアップ、株式会社エアロネクストがACSLと共同開発した日本発の量産型物流専用ドローンAirTruck。エアロネクスト独自の機体構造設計技術4D GRAVITY®*3により安定飛行を実現。荷物を機体の理想重心付近に最適配置し、荷物水平と上入れ下置きの機構で、物流に最適なユーザビリティ、一方向前進特化・長距離飛行に必要な空力特性を備えた物流用途に特化し開発した「より速く より遠く より安定した」物流専用機です。試作機は日本各地の実証実験で飛行し日本No.1の飛行実績をもつ。
*3 機体構造設計技術4D GRAVITY®
飛行中の姿勢、状態、動作によらないモーターの回転数の均一化や機体の形状・構造に基づく揚力・抗力・機体重心のコントロールなどにより空力特性を最適化することで、安定性・効率性・機動性といった産業用ドローンの基本性能や物流専用ドローンの運搬性能を向上させるエアロネクストが開発した機体構造設計技術。エアロネクストは、この技術を特許化して4D GRAVITY®特許ポートフォリオとして管理している。4D GRAVITY®による基本性能の向上により、産業用ドローンの新たな市場、用途での利活用の可能性も広がる。
【上士幌町とは】
北海道十勝地方に位置する人口約5,000人、東京23区より広い約700平方kmの行政面積を抱える農山村です。全国トップレベルの酪農業を軸に、バイオマスガスの再エネ発電と地産地消、子育て支援になどに加えICTを活用した福祉バスのデマンド運行、買い物弱者にはドローン配送など社会課題の取組が評価され、第4回SDGsアワードで内閣官房長官賞を受賞しました。
【JA上士幌町とは】
十勝北部の冷涼な気候と十勝平野の広大な土地を最大限に活用して、大自然の中で畑作、酪農・畜産を基幹とし「生命を育むための食糧」を消費者の皆さまへ安定してお届けするため、生産者とともに安全・安心な農畜産物の生産に日々全力を注いでいます。また、金融・共済事業や購買事業のほか、農業を通じて地域住民の方々と密接に関わりながら地域への貢献を果たすべく様々な事業を展開しています。
【株式会社NEXT DELIVERYとは】
「人生100年時代の空と陸と時間を繋ぐ4D物流™インフラで、豊かさが隅々まで行き渡る国へ」をビジョンに、2021年に山梨県小菅村に設立されたドローン配送を主事業とするエアロネクストの子会社。エアロネクストとセイノーHDが共同で開発し展開する、既存物流とドローン物流を繋ぎこんだ新スマート物流のしくみSkyHub?の実質的な企画運営、全国展開を推進しており、ドローン配送に関わるハード及びソフトウェアの開発、製造、販売、レンタル及び保守事業等の周辺事業も展開しています。山梨県小菅村を皮切りに、北海道上士幌町、福井県敦賀市等、地域物流の効率化、活性化に取り組んでいます。
*会社概要はhttps://nextdelivery.aeronext.co.jp/#company/をご覧下さい。
*エアロネクストおよびエアロネクストのロゴおよび、「4D GRAVITY(R)」は、株式会社エアロネクストの商標です。
*その他、このプレスリリースに記載されている会社名および製品・サービス名は、各社の登録商標または商標です。