東京天文台(現国立天文台)は終戦4年後、長野・岐阜県境の乗鞍岳(3026メートル)にある摩利支天岳(約2870メートル)の頂上に、太陽の外層大気「コロナ」を調べる「乗鞍コロナ観測所」を設立した。ちりやほこりが少ない高山は観測に有利な上、岐阜側には当時は珍しかった山岳道路が標高約2700メートルの「畳平」まで延びており、資材運搬や職員の登山が容易だったため、乗鞍を適地として選んだ。だがやがて、その道路に翻弄(ほんろう)される。
観測所は、太陽活動が地球に電波障害を起こす「デリンジャー現象」の研究を目的とした。元所長で国立天文台名誉教授の日江井(ひえい)栄二郎さん(91)は「予算を取るための建前。社会の何に役立つのか説明が必要だった。職員は純粋に太陽の研究がしたかった」と明かす。