東日本大震災で津波の被害を受けた岩手県陸前高田市で4月29日、復興を応援しようと「三陸花火大会」が開かれる。その実行委員会には、花火師を目指す高校生もいる。甲府工業高1年の広島啓人さん(16)だ。山梨で生まれ育ち、震災はどこか遠い存在だったが、活動を通じて震災を知るきっかけになった。広島さんは「つらい経験をした東北の人々に花火の魅力を届けたい」と意気込んでいる。(高村真登)
「もっと被災地の人と密接した花火大会にしたいですよね」。今月1日、広島さんは、実行委員会「学生部」のメンバーとオンラインで意見を交わしていた。高校生と大学生計12人でつくる学生部は、今回で4回目となる大会に向け、SNSなどで情報発信している。
南アルプス市に生まれた広島さんは、幼い頃から隣の市川三郷町で開かれる県内最大級の「神明の花火大会」が大好きだった。小学1年の頃、「将来の夢」を描く授業では画用紙いっぱいに花火の絵を描いた。
これまでに訪れた花火大会は県内外100か所以上。「花火師になりたい」という思いは日増しに強くなり、火薬など危険物を取り扱う資格を取得するための勉強を自主的にしている。広島さんは「花火は一瞬で消えてしまうが、人を幸せな気持ちにさせる不思議な力がある」と熱っぽく語る。
三陸花火大会はSNSを通じて知った。子どもの頃から憧れていた市川三郷町の花火製造会社「マルゴー」などが三陸花火大会の花火を打ち上げていた。
その縁で、学生部が昨年12月、「亡くなった母に結婚の報告をしたい」という女性のために同町で打ち上げを企画した花火に感動し、学生部への参加を決めた。
ただ、震災に関する知識は乏しかった。震災当時はまだ5歳。覚えているのは幼稚園で揺れを感じて机の下に隠れ、帰り道に母親と寄ったスーパーの棚から商品が落ちていたことくらいだ。被災地を実際に訪れたこともなく、学生部のメンバーに自己紹介した時、「震災について勉強したい」と素直に打ち明けた。
学生部には岩手県など東北地方で暮らすメンバーもいる。広島さんは仲間から送られてきた津波の映像を見たり、被災したメンバーから震災後に見た花火に勇気づけられた体験を聞いたりする中で、次第に震災を身近に感じるようになった。
学生部長を務める岩手県大船渡市出身の千葉快成さん(19)は「広島さんが花火をきっかけに震災に関心を持ってくれてうれしかった。山梨でも語り継いでほしい」と話す。
広島さんは4月、花火大会の運営を手伝うために初めて被災地を訪れる。「学生部に入り、被災地でこそ花火を上げる意味があると感じた。いつか自分が作った花火を被災地に上げたい」と胸に誓った。