発展途上国と日本企業のビジネスを仲介し、現地の社会課題の解決につなげようとする動きが広がっている。国連の持続可能な開発目標(SDGs)関連のビジネスを仲介するスタートアップ、ソーシャルマッチ(東京・墨田)は1月、日本の起業家とカンボジア企業の商談をまとめた。現地の職人が作った竹製品を日本で販売し、利益の一部で教育を支援したり、雇用を創出したりする循環をつくり出そうとしている。
「もう少し竹の表面を滑らかにしたいですね」。竹製品を扱うバンブースズキ(東京・練馬)代表の鈴木美希さんは1月、オンラインの商談で要望した。画面の向こうにいるのは、カンボジアでリゾート施設を運営するバンブーリゾートの担当者だ。
バンブーリゾートのリゾート施設は宿泊用のビラやレストランを竹で作り、経験がある竹職人を多く抱える。鈴木さんは職人らが作った竹製品を同社から仕入れ、2月にも日本で法人向けに販売を計画する。いまは山梨県の顧客から依頼を受け、神社で使われる「花手水(はなちょうず)」などを作る真っ最中という。
「(発展途上国の社会課題の解決につながる)フェアトレードビジネスをやりたいと思っていた」。そう語る鈴木さんは起業を決めてまもなく、ビジネス仲介のソーシャルマッチに相談し、バンブーリゾートを紹介してもらった。
バンブーリゾートを創業したカンボジア人のバンドン・トーン氏は、教育支援なども手掛けている。ソーシャルマッチの原畑実央社長は「バンドン氏は社会課題の解決に取り組んでおり、鈴木さんのやりたいことの実現につながるのではと思った」と話す。
ソーシャルマッチは2019年に設立した。東南アジアの経営者と日本企業を仲介し、SDGs関連のビジネス創出を支援する。カンボジアに住んでいたこともある原畑社長らが、数年かけて築いた6カ国100社以上の経営者との人脈を強みにしている。
これまでIT関連の雇用創出や職業訓練、発電インフラ整備などにつながる70件の仲介をしてきた。なかでもSDGsの大きな柱としているのがフェアトレード。発展途上国の生産者と、先進国の消費者が対等な立場でする取引のことだ。そのビジネスを通じ、生産者の生活向上などを目指す。
ソーシャルマッチが仲介したカンボジアのバンドン氏は、かつて僧侶をしていた。子どもが教育を十分受けられないまま育ち、雇用がままならない問題を見てきた。「親が都市部に出稼ぎにいくことが、子ども世代に響いている。家の近くで生計を立てられる雇用を生む必要がある」と話す。
バンドン氏は2000年代に教育支援などを手掛けるNGOを設立。16年には、雇用を生むためバンブーリゾートを創業した。日本での販売事業は「国際マーケットを得る機会になる」と期待を寄せる。海外にビジネスの足がかりを得られれば、雇用問題などの解決につながる枠組みが広がることになる。
こうしたビジネスを仲介するソーシャルマッチは、SDGs関連事業を検討する国内の大企業などから問い合わせが増えているという。業種も小売業からIT、再生可能エネルギー関連など幅が広がっている。
その背景にあるのは、日本企業のSDGsへの関心の高まりだ。帝国データバンクが21年、約1万1千社を対象に実施した調査によると、「SDGsに積極的」と回答した企業は39.7%だった。20年の前回調査から15.3ポイント増えた。とくに「大企業」に限ると、55.1%が「SDGsに積極的」と答えた。
フェアトレードなどSDGs関連のビジネスは、採算面のハードルが高いのが課題だ。バンブースズキは開発中の花手水の台を3万円で販売する計画だが、このうち半分ほどを輸送費が占める。さらに売り上げの10%をカンボジアの竹職人らの雇用創出に充てる仕組みになっている。
ソーシャルマッチへの仲介料の支払いなども含めると、一定の利益を出すにはどうしても販売価格を高めにせざるを得ない。とはいえSDGsへの理解が広がる中で、そうしたコストを負担しても社会課題の解決に貢献したいという消費者が増え始めているのは追い風といえる。
社会的な課題と、その解決につながるかもしれない需要やビジネスの種は世界各地に点在している。それを結び付け、新たな循環を生む仲介ビジネスは、世界を今より幸せにするための仕掛けのひとつになる可能性を秘めていそうだ。
(猪俣里美)