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2021/10/22 ,

イオン、100均キャンドゥを傘下に その狙いは何か

イオン、100均キャンドゥを傘下に その狙いは何か

週が明けても、いつもと変わらない光景が広がっていた。
東京都心の日本橋エリア。羽田空港、成田空港との直通リムジンバスが乗り入れる東京シティエアターミナル(T-CAT)の2階に、100円ショップのキャンドゥがある。
「100円で暮らしは楽しくなる」。そう書かれた店内に入ると、まずはハロウィーングッズが目に入り、奥に進むと、収納グッズやトラベルグッズ、衛生・掃除用品、衣料、お菓子などがカテゴリー分けされて並んでいた。
一部に300円(税込み330円)や500円(同550円)の商品が交じるが、もちろん大半は100円(同110円)だ。ビジネスパーソンから近隣住民まで、客層も老若男女幅広かった。
店構えも店内の様子も変わらないが、キャンドゥの株価は今、怒濤(どとう)の勢いで噴きあがっている。2021年10月18日には年初来高値を更新し、一時2659円をつけた。わずか2営業日で40%以上、値を上げたのだ。
そのきっかけをつくったのは、流通大手のイオンである。10月14日、イオンはキャンドゥに対し、TOB(株式公開買い付け)を開始すると発表した。最終的にキャンドゥ株の51%を取得して連結子会社化する方針だ。
TOBは2回に分けて実施し、1回目はキャンドゥ株の37.18%を上限に、10月15日から11月24日まで1株2700円で買い付ける。この「2700円」を目指し、キャンドゥ株への買い注文が膨れ上がったのだ。
TOBはまさに始まったばかりだが、キャンドゥ子会社化への道筋は既に見えている。キャンドゥの大株主である創業家がTOBに合意しているからだ。
1回目のTOBでは、筆頭株主である城戸一弥社長と、城戸社長の母で3位株主の城戸恵子氏が計19.68%分を応募する。イオンはその後、11月30日から12月27日まで、1株2300円で再びTOBに乗り出すが、この2回目のTOB終了後に2位株主で城戸氏の資産管理会社であるケイコーポレーション(東京・新宿)が保有する全株式(13.82%)を取得する予定だ。つまり、大票田は押さえている。
キャンドゥの店舗数は21年9月末時点で1155店舗。イオンによると現時点で147店舗、全体の1割強がイオングループに出店している。裏を返せば、残り9割はイオン以外に店を構えている。
イトーヨーカドーなどの総合スーパー(GMS)はもちろん、ここにきてツルハドラッグが相次いでキャンドゥを誘致。この10月1日からに限っても、厚岸店、千歳住吉店、旭川神居東店(以上北海道)、北杜武川店(山梨県)、早野店(千葉県)、村上新町店(新潟県)、東能代店、毛馬内店(以上秋田県)、鶴岡東店(山形県)と開業ラッシュが止まらない。
この間、業務スーパーやホームセンターのDCMホーマックにもキャンドゥの新店ができた。スーパーマーケットからドラッグストア、ホームセンターに至るまで、まさに「モテモテ」の状態なのだ。
100円ショップが重宝されているのは、どの業界の売り場にも「はまる」からだ。一部に100円以外の商品もあるが、基本は100円の均一価格で、暮らしのあらゆるシーンに応える商品をそろえている。売り場に加えると、それだけでラインアップが広がり、客層の拡大が見込めるというわけだ。
イオンが数ある100円ショップの中でも、キャンドゥをパートナーに選んだのは「比較的小型の出店形態を特徴としているから」だという。キャンドゥなら、大型の総合スーパーから、小型の食品スーパー(SM)まで、どの店にもはまり、しかも売り場に奥行きが出る。TOBに伴う総投資額は200億円超となるが、それだけの価値はあると判断した。
一方、100均(ひゃっきん=100円均一)業界では今、寡占化が進んでいる。売上高で見ると、ダイソーを運営する大創産業(広島県東広島市)が5262億円(21年2月期)で独走状態。セリアが2006億円(21年3月期)で続き、キャンドゥは730億円(20年11月期)、ワッツは507億円(21年8月期)となっている。
ここまでが「4強」という扱いだが、キャンドゥは3位の定位置から抜け出せずにいた。新型コロナウイルス禍による外出自粛や全国的な天候不順を理由に21年11月期は業績予想を下方修正し、減益決算となる見通しだ。
キャンドゥによると「業界では同業者間での出店競争が激化し、新規出店の機会獲得は年々厳しさを増している」。仕入れ原価も上昇傾向にあり、収益力を高めるには、店舗オペレーションなどの生産性改善が急務だった。
21年10月にはワッツが、同業の100円ショップ「FLET’S」「百圓領事館」などを運営する音通エフ・リテール(大阪市)、100円ショップ向けに雑貨商品を企画販売するニッパン(大阪市)の2社を子会社化した。
業界再編の機運が広がる中、キャンドゥはイオンの連結子会社になる道を選んだ。キャンドゥによると、イオングループに入れば、国内だけで総合スーパー約200店舗、食品スーパー約2300店舗、ドラッグストア約2200店舗で、出店チャンスが巡ってくる。コスト削減など、経営効率も高められるという期待も、決断を後押しした格好だ。…
気がかりなのは、既存店の処遇である。イオンにもダイソーやセリア、ワッツが出店しており、キャンドゥも現状ではイオン以外への出店が圧倒的だ。これら既存店の運命はどうなるのか。
イオン側は「既存の施設への出店や、他のテナントの入居などについてはこれまで通り変わらない」と断言する。つまり、イオン内に今ある他の100円ショップはそのまま残す。その代わり、100円ショップがないイオンでは今後、キャンドゥの売り場が増える可能性は高い。
「イオン外」への出店も続ける。直営の路面店や、フランチャイズ方式による地方都市への出店、委託販売型など小型フォーマットの出店も強化する。イオン、キャンドゥそれぞれのオンラインショップでも協業していくという。
イオンの連結子会社になっても、キャンドゥの経営体制は変わらない。城戸社長は続投し、東証1部上場を維持する。
「城戸社長の経営手腕を評価しており、キャンドゥの従業員のモチベーションや独立性、ガバナンス規律維持の観点からも上場と経営体制を維持する。これまでグループ入りした企業で、上場を維持したまま企業価値の向上を果たした実績がある。グループの考え方として上場は維持していく」
イオンは、そう強調する。一方で、イオンから取締役の派遣も検討しているという。
イオンは15年3月、食品スーパーのマルエツ、カスミ、マックスバリュ関東を経営統合し、「首都圏最大のSM企業」として共同持ち株会社のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)を設立した。マルエツ、カスミを上場廃止とする代わり、U.S.M.Hを新規上場させた。
直近では、中四国での業容拡大が目立つ。マックスバリュ西日本が21年3月、食品スーパーの山陽マルナカ(岡山市)、マルナカ(高松市)と経営統合し、「新生マックスバリュ誕生祭」を開催したのもつかの間、そのマックスバリュ西日本は同年9月、食品スーパーのフジ(松山市)との経営統合を新たに発表。22年3月にイオンの連結子会社となる共同持ち株会社を設立する予定だ。
マックスバリュ西日本とフジの売上高(21年2月期)を単純合算すると、年商8785億円。営業エリアは中四国と兵庫県の10県にまたがり、500店舗を超す。エリア内では一気にトップに躍り出る。マックスバリュ西日本は上場廃止となる一方、フジは共同持ち株会社として上場を続ける見通しだ。
食品スーパーの再編に続き、今度は100円ショップを傘下に加えるイオン。拡大の一途をたどるグループの中で、キャンドゥらしさをどこまで保ち、企業価値を高められるか。「新生キャンドゥ」拡大の成否次第で、100均の業界地図は塗り替わる。
(日経ビジネス 酒井大輔)
[日経ビジネス電子版 2021年10月20日号の記事を再構成]
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