JR東海のリニア中央新幹線建設工事に伴い、ルート上にある笛吹市境川町三椚の三椚熊野神社(志村重治宮司)の本殿を境内で移設する工事が進んでいる。本殿は築300年超で、甲州市の工務店の宮大工が解体し、慎重に組み立て直しの作業を終えた。神社の完成は11月の予定。 住民らでつくる三椚区リニア対策委員会によると、事業用地になったのは神社境内の約1400平方メートル。2本の参道を横切る形でルートが設定され、既存の場所では本殿などにつながる参道の新設が難しいことから、随身門と本殿、拝殿などを境内の約10メートル東側にそれぞれ移した上で、参道を新設する工事を2020年10月から進めている。 境内に現存する建物で最古のものは、江戸時代中期の1717年に建てられた本殿。神社の建築などを専門に請け負う「伝匠舎 石川工務所」(甲州市塩山上於曽)の宮大工が作業に当たり、本殿を解体して移動させ、慎重に組み立て直す作業を進めた。拝殿や幣殿、随身門は新築する。 県などが選ぶ「卓越した技能者(やまなしの名工)」で、本殿の移転作業をした宮大工有泉和人さんは「組み立てる際には間違いがないよう、解体から組み立てまでの作業は全て一人で担った。200~300点ほどの材料には全て番号を振り、一部は目立たないように修繕をした」と話す。 移転を巡っては、2015年に三椚地区が発足させた対策委はJR東海などと、境内で移転するか、別の場所に神社ごと移すかを協議。新たな敷地を購入すると移転補償ではまかなえないため、境内での移転が決まった。 神社は1197年に別の場所で建立。1582年には万福寺が焼失した跡地に移転し、1954年には境川中校舎建設のため現在の場所に移転していて、今回で3度目の移転となる。2度目の移転の際には、本殿を解体せず、そのまま移動する曳家で移設したという。 対策委によると、神社には修験道の開祖とされる役小角の像や如来像を祭っている。武田信玄の祖父・信縄の花押がある制札は市指定文化財に認定され、県立博物館に収蔵されている。 対策委の岡正文会長は「リニア建設工事が理由の移転なので、区役員や住民に一切の費用負担がないように交渉を進めてきた。無事に工事が終わることを祈っている」と話している。
築300年本殿移設進む (山梨日日新聞)