右肩上がりの伸びを続ける山梨県富士吉田市のふるさと納税の寄付額が、2月末でついに70億円を突破した。2020年度末で全国6位の実績を示し、さらに好調な寄付は、22年度当初予算を過去最高額に押し上げた。豪華、高額商品による返礼品競争が続く中、全国的に目を見張る返礼品もない同市のふるさと納税が、なぜ人気なのか、寄付者が何を求めているのかを探った。
ネクタイや傘など地場産業の織物製品や地酒、豆腐セットに「富士山麓(さんろく)牛」の霜降りセットなど、同市の返礼品は1084点に及ぶ。すべてが、地元業者の商品や地元の素材を使った製品。寄付者が求める返礼品で件数が多いのは、富士山の伏流水を使った炭酸飲料水や、伏流水で羽毛を洗浄した羽毛布団、富士山の溶岩片と一緒に焙煎(ばいせん)したドリップコーヒーがトップ3だ。
総務省によると、同市は20年度の寄付総額で全国6位となった。上位5位の自治体を見ると、牛肉、焼酎で知られる宮崎県都城市(第1位)をはじめ、ホタテ、カニがそれぞれ有名な北海道紋別市(第2位)、根室市(第3位)など全国屈指の名産地ぞろい。富士吉田市の返礼品は全国的な知名度は決して高いとは言えない。
寄付額が第一目標でなく、市内事業所の商品と市のPRが目的だと強調するふるさと納税推進室が挙げる同市の特徴は、寄付と返礼のやりとりにとどまらず、観光誘客につなげる念を入れた対応とリピーター(4割)の多さだ。
推進室の萩原美奈枝室長は「寄付者が返礼品を受け取った時の感動や共感を重視している」と言い、返礼品の事業者紹介冊子と寄付の使い道ブック、市内の商店や名所をまとめた観光案内の3点セットを返礼品に同封している。事業者冊子は、返礼品の製造方法や製作者の苦労、思いを紹介。これとは別に県立富士北稜高の生徒が製作者を取材した内容や感想などをつづった写真入りのカードもあり、作り手の顔が見えるよう工夫している。
同市出身で7年前から市に寄付している名古屋市天白区の主婦、近藤美奈子さん(50)は地域の友人にも勧め、現在では10人が賛同、中には5年間継続している友人もいる。
メールで感想などが送信されてくるが、返礼品の製作者の心意気のほか、市発行の寄付の受領証に感謝の気持ちが込められた職員の手紙も添えられ、「心が和む」といった声が目立つ。近藤さんは「都市に住む人は人のつながりを求め、ちょっとした心遣いに心動かされ、また富士吉田を応援したくなるのでは」と話す。
1歳女児の母親の東京都杉並区、20代会社員は、人気の返礼品がそろう複数の自治体へ寄付していたが、2年前に富士吉田市に切り替えた。昨年は富士山の伏流水を用いた飲料水などを求めて3回寄付した。他の自治体の返礼品は食べ方などの説明書き程度だが、同市の場合は製作者の顔が見え寄付の使い道が分かる点を評価。市に興味を持ち、家族3人で昨秋、同市を旅行したほどだ。
「赤ちゃんが触れて、口にするものは気になる。誰がどのように作っているか、寄付がどう役立っているかが分かるので、安心感が持てる」と話す。同市に寄付する人たちは、商品の魅力とともに心遣いや安心感を求めているようだ。【山本悟】
同市のふるさと納税は、2008年度の制度導入とともに開始。専用ポータルサイトに登録した15年度の寄付総額は約9000万円だった。17年度には専属職員2人の推進室を新設し、20年度に58億3000万円で全国6位に躍り出た。
21年度は専属職員を10人に増員。22年2月末現在で70億2600万円と伸びている。21年度当初予算(241億4000万円)の3割に相当する。22年度の当初予算は、「ふるさと納税のお陰で」(総務部)、前年度比11・1%増の268億1000万円で過去最高の予算規模となった。
集まった寄付金は、保育園の備品購入や富士山登山の安全対策、コロナ禍の市出身学生に食料を送るなどのコロナ対策などに活用している。21年度は、観光名所の新倉山浅間公園で富士山を一望できる展望デッキの整備費(1億3000万円)全額を賄い、2月から開放している。