18歳以下の子供に10万円相当を給付する政府方針を巡り、岸田文雄首相は13日の衆院予算委員会で、地方自治体が希望すれば年内に全額現金10万円を一括給付することを認める意向を示した。政府は原則として年内に現金5万円を給付、来春にクーポン5万円分を配布すると説明。クーポンの給付で約900億円の事務経費がかかり、自治体の事務負担が増えることから批判の声が出ていた。実質的な軌道修正に対し、各地の首長らからはさまざまな反応が聞かれた。
大阪府の吉村洋文知事は13日、記者団に「5万円分をクーポンにして900億円超もの経費をかけるのはおかしいと僕も発信してきた。岸田首相の方針に賛成だ」と語った。
その上で、吉村知事は「政府方針がコロコロ変わるので、どういう場合に一括給付を認めるのか、早く基準を知らせてほしい。市民にとっても現金の方が使いやすいし、クーポン配布はワクチン(3回目)接種の事務と時期が重なるので、市町村は早く決めてほしいと思っている」と訴えた。
岸田首相の発言を受け、東大阪市の野田義和市長は「年内に現金で10万円を一括支給できると判断した」とのコメントを発表。市内の対象世帯に23日から順次給付を始める方針を示した。埼玉県入間市の杉島理一郎市長も取材に対し、24日までに現金10万円を一括支給すると明らかにした上で、「クーポンはコストがかかる上に市民の利便性の向上につながらないと考えた」と語った。横浜市の山中竹春市長と甲府市の樋口雄一市長は10万円全額を現金給付する意向を表明した。
一方、名古屋市の河村たかし市長は記者会見で「需要を作るためにもクーポンでやるのがええと思いますけどね」と述べ、5万円分をクーポンで配布する当初の政府案に理解を示した。
河村市長は昨年春に政府が国民1人当たり一律10万円を配った「特別定額給付金」に触れ、「7~8割が貯金されたと聞いた。経済を回すためには貯金ではなく需要を作らないといけない」とクーポン活用の利点を指摘。ただ、市としての対応を問われると、「なかなか難しいところ。国が一定の基準を示すんじゃないですか」と明言を避けた。
戸惑いを隠せない自治体もある。山口県下関市の前田晋太郎市長は13日の定例記者会見で「恐れず率直に言うのなら、国民のニーズを見誤った結果だろう」と従来の国の方針を批判。「子供を育てるのにどれだけお金が要るのかというのを政治家が分からないのはナンセンス。やると決めたのなら、一括で現金給付するのがいいに決まっている」と述べ「当たり前の議論に戻ったのだろうなと思う」と続けた。
山口県防府市は、24日に約1万5000人に現金5万円を振り込む予定で、残りは2022年3月以降をめどにクーポン券を配布する計画。同時期にはクーポン券の配布対象ではない市民にも市独自のプレミアム商品券を販売する計画を立てており、池田豊市長は13日、取材に対し「変更はできない」とこぼした。
北九州市の担当者は、岸田首相の発言に「情報収集している段階。市民から問い合わせもあるが、国から(給付の条件や運用方法をまとめた)根本的な指針は示されていないので、正直振り回されている」と当惑しつつ、23日からの開始を決めた先行分の現金5万円の支給に向け「準備を進める」と話した。【矢追健介、鷲頭彰子、部坂有香、林大樹、青木絵美】