サントリーホールディングスは2030年に自社生産拠点での温暖化ガス排出量を半減、取引先を含むバリューチェーン全体でも3割減らす計画を掲げる。50年の脱炭素達成に向け原料や包材、包材のリサイクルを含むサプライヤー、配送業者などとの共同作業が欠かせない。新浪剛史社長は「良品」の定義が大きく変わったと指摘、温暖化対策は必ず実行しなければならないと力説する。
「社会との共生」はサントリーグループの創業精神と重なる。1899年に鳥井信治郎が創業してから120年あまり、当社は企業理念の下、豊かな自然や社会を次の時代につなぐ活動に取り組んできた。とりわけ酒類や清涼飲料に欠かせない水は貴重な経営資源。次代にも引き継ぐため、日本では工場でくみ上げる地下水量の2倍以上の水を工場の水源涵養(かんよう)エリアの森で育んでいる。海外でも2050年には取水する以上の水を涵養する考えだ。
集中豪雨や洪水、山火事といった地球温暖化が引き起こす自然災害が頻発している。事業活動に伴う二酸化炭素(CO2)をいかに減らすか。しっかり取り組む。
プラスチックは便利なだけでなく、食品保存や衛生面でも役割を果たしている。一方、海洋汚染などの形で生物の多様性に影響を与えている。プラスチックを資源として再生し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を確立するとともに、石油由来から植物由来に切り替えることでCO2排出を減らすよう努める。石油由来の新たなペットボトルを30年までにすべてなくすなど、50年には取引先を含むバリューチェーン全体でカーボンニュートラル(CO2排出の実質ゼロ)をめざす。
これまで食品・飲料分野においては「安全安心」「おいしい」「健康」などが良品の定義だった。この良品の定義が大きく変わってきた。消費者は地球温暖化対策などの約束をきちんと守り、実行する企業の商品を買うようになっている。環境対策は「必ず実行すべきこと」であって、これをやらない選択肢はない。企業の存続にもかかわる重要な経営戦略だ。
「環境目標2030」では、自社拠点での温暖化ガス排出量50%削減(19年比)、バリューチェーン全体の排出量30%削減を目標に設定した。「環境ビジョン2050」では、バリューチェーン全体での温暖化ガス排出量実質ゼロをめざす。5月に稼働した「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」(長野県大町市)ではCO2排出量実質ゼロ工場を実現した。
22年中に、日米欧の自社生産研究拠点で再生可能エネルギー由来の電力使用率を現在の約3割から100%に引き上げる。30年までに約1000億円を投じ、設備投資など目標達成への取り組みを加速する。「使わせていただいている」自然資本をしっかり再生し、サステナビリティー(持続可能性)に配慮した商品をつくっていく。
グローバルに事業を展開する企業として直面する課題は、国や地域ごとの状況の違いだ。アジアでは、火力発電に頼らず一足飛びに再生エネに切り替えることは非常に難しい。脱炭素への移行では地域の事情にあったルールを世界に認めてもらわなければならない。日本を含むアジアでは、風力発電や太陽光発電といった再生エネが地理的条件に左右されてしまう面もあり、欧州のような電源構成には簡単に移行できない。
目標の進捗具合は第三者機関にきちんと認証してもらう。どこまで進んでいて、何が課題で、その課題をどう解決していくのか。情報を開示することで、ステークホルダー(利害関係者)とコミュニケーションをしっかりとっていく。良品をつくり、世の中の信頼を得て社会の役に立つ。今までもそうしてきた自負はあるが、今後もそういう会社であり続けたい。社員のモチベーションやエンゲージメントが上がり、よい人材も集まる。取引先の企業ともノウハウや技術を共有し、一緒になって課題を解決する循環を築く。
使用済みプラスチックの再資源化に向け、業界を超えた12社による共同出資会社アールプラスジャパン(東京・港)を20年に設立した。米国のバイオ化学ベンチャーの技術をもとに、環境負荷の少ない効率的な再資源化技術の実用化に挑む。ここは競争領域ではない。あらゆる企業に参画してもらい「共創」によって事業規模を大きくし、循環型経済を実現するためだ。開発した技術や収集ノウハウはアジア諸国とも共有し、課題解決に取り組んでいく。