山梨県内の民話に残る「妖怪」をイラストで描いた「山梨の妖怪展」が、上野原市上野原のギャラリー「isyokuju」で開かれている。作者は市内在住の男性(38)で大蛇堂(おろちどう)の作家名で活躍している。各地の伝承を読み解き、大胆に想像を膨らませて描いた作品からは、妖しい魅力が迫ってくる。
大蛇堂さんは、宮城県出身。東京のデザイン学校を卒業後、葬儀会社の看板製作などを経て、妖怪のイラストを布地に特殊印刷し、掛け軸のかたちで表現する「妖怪掛け軸作家」として活動してきた。
同市秋山に移住したのは2018年。散策するうち、民話の看板が41枚も立っていることに気づき、創作意欲を刺激され、妖怪のイメージを膨らませていったという。
最初の作品は、その秋山の伝承をもとにした「ずず」。道に迷った僧をタヌキかキツネが化けたと思い焼き殺してしまったため凶作が続き、お宮をつくり鎮めた話から、数珠を手にした僧が炎に浮かぶ姿を描いた。「知る人ぞ知る話に光を当てることが楽しかった」という。
民話を採集するうち、山梨らしいと感じたのは「小豆(あずき)そぎ婆」(北杜市)だ。妖怪の中では比較的知名度のある「小豆洗い」に似た妖怪だが、柿の木の上から人を呼び止めるところがユニークだという。
大月市が観光PRに力を入れる「桃太郎伝説」も作品に取り込んだ。桃太郎を妖怪ととらえることについて「違和感を持つ人もいると思うが、桃から生まれて犬や猿、キジと会話ができるというのは妖怪。妖怪とは何かという視点で見てもらってもよい」と話す。
このほか、背中から何本もの足をはやした「蟹坊主(かにぼうず)」(山梨市)、頭の皿に三つの穴のある河童(かっぱ)「カワッパ」(富士河口湖町)、新型コロナウイルスの感染拡大で話題になった「ヨゲンノトリ」などもある。
描いた妖怪は全部で51体。「妖怪とは、ちょっとうさんくさいけれど魅力的な存在。ゆるキャラの元祖のようなものだと思って楽しんでほしい」
前期(12日まで)と後期(16~26日)に分け、30点ずつを展示する。問い合わせは同ギャラリーの店主井桁さん(080・4270・2384)へ。(永沼仁)