豊かな自然に恵まれる甲信地方。この土地で生まれた芳醇(ほうじゅん)な美酒は、幾多の人生に彩りを添えてきた。一方で少子高齢化に伴う担い手不足やアルコール消費量の減少など社会情勢の変化に伴い、酒造りも変化を余儀なくされている。新時代の酒造りに挑む人たちの姿を紹介する。
1896(明治29)年創業の若林醸造(長野県上田市)は事業の大幅な縮小に追い込まれた時期があった。そこから復活させた立役者が同社初の女性杜氏(とうじ)、若林真実さん(36)だ。その軌跡とは――。
信州最古の温泉地とされる別所温泉とともに栄えてきた若林醸造。代表銘柄の「月吉野(つきよしの)」はすっきりした味わいで人気があった。しかし、日本酒需要の低迷もあり、1960年代から酒造りを縮小。代わりに、蔵の設備でりんごジュースや甘酒を手掛けてきた。